投稿小説 みんなの珍芸お義姉ちゃん 6







【珍芸お義姉ちゃんの目撃談・その2】

土曜日、特にやることもなく家でくつろいでいると、サークルの先輩から連絡が入りました。

なんでも私(仮名:貴子)と直接会って話がしたいそうで、下宿しているアパートまで来てくれるということでした。

「莉子先輩、何の用だろう。最近会ってなかったから嬉しいな」

連絡をくれた莉子先輩は、大所帯な軽音サークルのまとめ役のような存在でした。

入学当初、新歓のイベントで騒ぎすぎた同期を叱責している姿を見たときは、ちょっと怖い先輩なのかな?私も怒られたら嫌だなぁ…なんて思っていました。

しかし、普段のサークル活動や飲み会などで会話を交わすうちに、オンとオフの区別がしっかりしている頼れる先輩だとわかり、仲良くなりました。

ライブに向けて、ともに夏合宿で汗を流したことは大切な思い出のひとつです。


しばらくしてからインターホンが鳴り、先輩が訪ねてきました。

「はーい、今開けますね」

開錠してドアを開くと、そこには……。

茶色い全身タイツに身を包んだ莉子先輩が、真っ赤な顔で佇んでいました。

「え……?せ、先輩……?」

完全に予想外の姿に、私は固まっていました。

普段はオシャレな莉子先輩が、なぜ全身タイツなんて着ているのか。

しかも、先輩の家からここまで来るには徒歩で十五分ほどかかるはず。もしかして、人通りの多い街中をこの全身タイツのまま歩いて来たのだろうか…。

いったいなぜそんなことを?恥ずかしそうな様子を見るに、なにかの罰ゲーム?

「いきなりごめんね。上がってもいいかしら?」

先輩がそう言って、私は我に返りました。

顔は変わらず真っ赤なままで、声も少し震えています。

「はい。どうぞ…」

「ありがとう」

受け答えだけはいつも通りなところが、かえって違和感を加速させます。

人のファッションに口出しできるほど私も洗練されているわけじゃないけれど、さすがにこれは事情を聞いた方がいいのだろうか。

そう逡巡しながら部屋まで案内すると、先輩は話を切り出しました。

「あなたには私の一発芸を見てもらいたいの」

「い、一発芸…ですか…?」

「ええ。今から見せるから、終わったら感想を聞かせてね」

「あ、あの…」

先輩は私の言葉を遮るように、声を張り上げました。

「珍芸お義姉ちゃんの一発芸!!いっきまーっす!!」

そう言うと、先輩は中腰になり、両手をパタパタと上下に動かしながら私の周囲を回り始めました。

「コケコケコケーッ!!コケコケーッ!!コケケーッ!!」

どうやらそれは、ニワトリのモノマネのようでした。

「コケケケーッ!!コケコッコーッ!!!」

耳まで赤くなった顔で必死に唇を尖らせて、ニワトリの鳴き声を再現しようとする莉子先輩。

いったいこれはどういう状況なのか…。

あまりのことに私が困惑していると、次の一発芸が始まりました。

「あるある探検隊っ!あるある探検隊っ!」

今度は、昔流行ったお笑い芸人のリズム芸でした。

「まん毛が濃すぎて蒸れまくる!はいっ!はいっ!はいはいはいっ!」

女性としてあり得ないくらい下品なネタを口にする先輩。

「あるある探検隊っ!あるある探検隊っ!」

「ケツ毛が濃すぎて拭きづらい!はいっ!はいっ!はいはいはいっ!」

言うまでもなく、いつもの先輩なら絶対に考えられない言動です。

「あぁーっ!ネタ被ったぁーっ!下手こいたぁー……」

先輩は突然そう叫び、その場でうずくまりました。

すると…。

「でもそんなの関係ねえ!でもそんなの関係ねえ!でもそんなの関係ねえ!」

「はいっ!おっぱっぴー!!」


見ているこっちが恥ずかしくなるような一発芸はその後も二つほど続き、先輩は流石に疲れたのか、床に座り込んで息を切らせていました。

「えっと、先輩?これ、なにかの罰ゲームなんですか……?」

「っ」

私がやっとのことで質問すると、先輩は数秒だけ表情を硬直させた後、不自然なくらいニッコリと笑ってこう言いました。

「わ、私は恥ずかしいことが大好きなドMですけど…なにか?」

私は耳を疑いました。

あの厳しくも優しい莉子先輩が、本当は自ら恥を晒して悦ぶドMの変態だったなんて、とても信じられません。

しかし現実として、彼女は私の家に全身タイツで来訪し、普通の神経ならまずできないような一発芸の数々を目の前でやってのけました。

もしや今まで私に見せていた先輩像は、こうして自分の性癖をカミングアウトするときのために作ったものだったのでは…?いや、流石にそんなはずは…。

これまでの先輩のイメージと突き付けられた現実のギャップに混乱している私にとどめを刺すように、先輩は言いました。

「今までキャラ作ってたけど、これが本当の私なの。どう思う?」

ハッキリ言ってショックでした。

尊敬できる先輩だと思っていたのに、自分の性欲のために後輩を利用するような人だったなんて。

「…正直、気持ち悪いです」

私がそれだけ絞り出すと、気まずい沈黙が訪れました。

先輩は俯いて黙り込んでいます。

先輩に言ったことは偽りない本音でしたが、その様子を見ると少し申し訳ない気持ちにもなりました。

いくら本性が変態だったとはいえ、今までよくしてもらってたことは事実なんだし、さっきのは言い過ぎだったかも…?

私がそう思っていると…。

「わ〜いわ〜い!!莉子、ドMだから嬉しいでちゅ〜!!わ〜い!!わ〜い!!」

先輩はいきなり立ち上がり、ガニ股で腰を前後に振りながらそう叫びました。

その顔は一発芸を披露している時と同じく、真っ赤に染まっていました。

「貴子ちゃんもっと罵ってぇ〜!おねがぁ〜い!」

今度は床に這いつくばり、腰をくねらせながら、私の足に顔をこすりつける先輩。

「なっ…や、やめてください!」

あまりの気持ち悪さに後ずさってしまいました。

もう目の前の女性は私が知っている先輩じゃなくて、異常な性癖をこじらせた変質者だと認識するほかありません。

「も、もう帰ってくださいっ!こんな人だとは思いませんでした!最低です!!」

私はそう罵って、近くにあったクッションを先輩の顔へ力いっぱい投げつけました。

「ウキャキャキャッ!!珍芸お義姉ちゃん、これにて失礼するでヤンス!!ウキャキャキャッ!!」

先輩はクッションを投げられた一瞬だけショックを受けた顔をしましたが、すぐさま例の不自然な笑みを浮かべて鼻の下を伸ばし、サルのようなガニ股の前かがみ姿勢で帰っていきました。

「………」

私はしばらく呆然としていましたが、思い出したようにスマホを手に取り、莉子先輩の連絡先を着信拒否にした後、アドレス帳から消去しました。

今まであんな人に憧れていた自分が馬鹿みたいです。

もう二度と会いたくありません。






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