沙紀 姉妹と主従の交差点 1







〜注意〜

この作品は、以下の作品の続編に当たります。

〜こずえ  晒しと支配の交差点〜

〜夏子 清楚と珍芸の交差点〜



また、以下の作品と同時進行で掲載します。

〜望美 冷淡と崩壊の交差点〜



未読の方は、先にそちらを読んで頂くことをお奨めします。



















「ただいまー」

元気の良い声が、静かな一軒家の玄関に響く。

「お帰り。買い物してきてくれた?」

「うん。シチューの材料一式揃ってるよ」

「ご飯には少し早いけど、もう作っちゃおうか」

「はーい」

仲の良い姉妹の会話が、この日もいつも通り交わされていた。





愛沢沙紀(20)と由紀(18)の姉妹は、郊外の一軒家で二人暮らしをしている。

色々と複雑な家庭の事情で、小学校の頃に二人は親戚の家に引き取られて育った。

だが妹の由紀が高校を卒業し、姉の沙紀と同じ大学に入ってからは二人で暮らすようになった。

いつまでも親戚に迷惑はかけられないと、二人が幼少住んでいた家に戻ることにしたのだ。

現在は二人とも大学に通いながら、奨学金とバイトで生計を立てている。





「お姉ちゃん。一年生のころ近現代文学の講義取ってたでしょ?」

食事をしながら、由紀が姉の沙紀に対して語りかける。

「取ってたけど、どうかしたの?」

「ちょっと単位落としそうになっちゃって。お姉ちゃんの過去レポそのまま提出しちゃダメ?」

おどけた調子で聞く由紀。

二人は同じ大学に通っており、現在一年生の由紀が受けている講義は、過去に沙紀が受けている場合が多い。

由紀は頼り甲斐のある沙紀を尊敬しており、小さいころから沙紀の後ろをついてまわっていた。

沙紀と同じ大学を受け、同じ講義を取っているのも、姉への尊敬の念が関係しているのかもしれない。

「レポート……ダメかな」

「だめ。そういうのは却下って言ってるでしょ」

妹の要求に取り合わず、軽く目を閉じて首を振る沙紀。

「わからないところがあれば教えてあげるけど、人のぶんを丸々コピーじゃ由紀の身につかないでしょ」

「そうだけどさー」

「せっかくいい講義なのに。実例の紹介とかも豊富だし」

「はいはい。わかりましたー……」

「良い講義は自分のものにしないと。そのための大学でしょ?」

上品に両手で湯のみを持ちながら、由紀の怠惰をたしなめる沙紀。

沙紀の小言を受けながら、由紀は椅子にもたれて唇を尖らせつつも納得した様子を見せる。

姉妹ではあるが、二人の性格はそれほど似通っていない。

姉の沙紀は品が良く穏やかな性格だが厳しい一面もある、物腰の落ち着いた女性である。

それに対して妹の由紀は少しルーズな性格をしており、天真爛漫な生き方を好んでいる。

違うといえば、見た目もあまり似ていないかもしれない

ウェーブのかかった長い茶髪に、薄い化粧の似合う整った顔立ちの沙紀。

ファッションセンスも洗練されており、若々しさを保ちながらもシックな雰囲気を醸し出している。

由紀は肩にかかる程度の長さの黒髪であり、化粧っけはあまりないものの素で可愛らしい顔をしている。

相反する外見と性格を有する二人だったが、姉妹仲はかなり良いほうだった。

由紀はしっかり者の沙紀を尊敬しており、沙紀も奔放な由紀を可愛がっている。

お互いの特色が見事に噛み合って、二人は互いに助け合って生活してきた。

















時と所は変わり、祝日の駅近ショッピングモール。

三人のギャル達がコーヒーを飲みながら談笑していた。

「ねーねー。次は望美にどんな恥かかせてやろうか」

「あいつのマンションの近くのコンビニで、阿波踊りしながら店内一周でもさせよっか」

「あはははは!それいい!ウケる〜」

ギャル達はこれまで何人もの女性を暴力で服従させ、恥ずかしく屈辱的な目にあわせ続けてきた。

今はターゲットにしている女性をどう辱めるか、カフェで相談中というわけである。

「でもさー。これから夏休みに入るじゃん?いじめる相手が望美一人じゃつまんないよね」

「言えてる。もう一匹くらい欲しいね」

「そこらへん歩いてる女てきとーに拉致っちゃおーよ」

「だね。……さてと、どれがいいかな」

ギャル達三人は、店内からモールのフロアを歩く女性たちを品定めしていた。

今後ギャル達の生贄になって生き恥を晒す、哀れな女性の選別が行われる。

「あそこで参考書選んでる眼鏡の女子高生は?」

「いかにも真面目で大人しそ〜だね。いいんじゃない?」

「ガリ勉っぽいよね。授業中に鼻にエンピツ差したまま『因数分解バンザーイ!』って叫ばせよっか」

「きゃはははは!『受験がなんぼのもんじゃ〜い!』とかはどう?」

「あっはははははは!もーマジ笑いすぎてお腹痛い!」

他人を辱める案を出しては、机を叩いて爆笑するギャル達。

残酷な相談をする時ほど、彼女たちのテンションは上がる。

可哀相なターゲットが決まりつつあった、その時……。

「あ!ちょっと待って。あそこの二人連れは?」

ギャルの一人が指を指した先では、沙紀と由紀の姉妹が店先で服を選んでいた。





「ミニのワンピは先月買ったし、どうしよっかなー」

「たまには落ち着いた感じのを選んでみたら?こっちのフレアスカートとか」

「えー?上品なのは私には似合わないって。お姉ちゃんじゃないんだから」

「そんなことないと思うよ。由紀は細身だし何でも似合うと思う」

「ほんとにー?じゃあたまにはこういうのも着てみよっかな〜」

「もちろん行動に品が伴えば、だけどね」

軽口を言い合いながら、仲良く服選びをする二人。

結局、沙紀が薦めたフレアスカートを由紀が購入し、二人は店を後にした。





モールを出て帰路に着く姉妹。

家は郊外にあるため少し遠いが、お喋りしながら帰ればいつの間にか家に着いてしまう。

「さっき買ったスカート、さっそく着て帰ればよかったー」

「家についてからのお楽しみね」

「待ちきれないよ。お姉ちゃんみたく上品なのも似合うかな」

新たなファッションにわくわくする由紀を見て、沙紀の表情にも自然と笑顔が咲く。

「ねー。そこの二人組」

不意に後ろから呼び止められ、二人は一瞬自分たちのことだと気づかなかった。

「シカトこいてんじゃねーよ!!」

その言葉を受け、二人は驚いて後ろを振り返った。

見ると、明らかに柄の悪そうな女子高生三人組が怒ったような表情で自分たちを見ている。

「お、お姉ちゃん……」

脅える由紀をとっさに庇うように、姉の沙紀がギャル達のほうに一歩出る。

「何か御用でしょうか」

「さっきモールでウチらにガンつけてたよね」

「つけてません。思い違いでは……?」

気丈に向き合う沙紀の背中を、由紀が震える手でつかむ。

普段は天真爛漫な由紀だが、トラブルには無縁の人生を送ってきたためこうしたアクシデントには弱い。

妹の手前毅然と向き合っている沙紀のほうも、当然このような状況には慣れていない。

「てめーウチらのことナメてんだろ」

ギャルの一人が沙紀に詰め寄り、もう一人が素早く由紀の後ろに回りこむ。

自然と逃げられない状況を作り出すギャル達に、沙紀は表情をこわばらせた。

目の前のリーダー風の女子高生が、沙紀たちに向かってドスの聞いた声で語りかける。

「しっかり謝ってもらおーか。ちょっと来いよ」

















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